公開シンポジウム「ことば・認知・インタラクション8」


「ことば・認知・インタラクション8」


本シンポジウムは中止となりました。

趣旨

会話は、ことばと認知とインタラクションが出会う場です。私たちのプロジェクトでは、言語学・心理学・会話分析・認知科学・情報工学など、さまざまなアプローチから会話や話し言葉の諸現象に関する研究を行なっています。今回は2013年から数えて8回目の開催となります。今回は、社会統語論という新たな切り口から「文法」にアプローチされている吉川正人先生と、アフリカ狩猟採集民のフィールド調査から子どもの社会化まで「相互行為の人類学」という立場で研究されている高田明先生を招待講演にお招きし、みなさんと共に議論する場を設けました。多くの方の参加をお待ちしております。



招待講演1内容

  • タイトル:傀儡の文法論:ヒトの創造性に寄生する社会的ウイルス
  • 講師:吉川正人(慶應義塾大学)
  • 要旨:文法は生得的か否か。この、文法に関する「生まれか育ちか (“nature vs nurture”)」の議論は今なお続く言語学の一大論争であるが、本講演では、この論争に対し一つの決着をもたらすべく、「ヒトの持つ創造的能力に寄生し伝承される社会的構築物としての文法」という文法観を提示する。文法の生得論者が主張するのは具体的な文法規則というよりはそれを操ることを可能にする基本的な能力 (e.g., 併合・再帰) の生得性であるが、これを最大限肯定したとしても、即ち「文法が生得的である」という結論には必ずしも至らない。むしろ、文法とは、コミュニティに共有された慣習という意味で本質的に社会的な構築物であり、それが謂わば要素の組み合わせや類推などを通して創造的に表現を作り出すヒトの能力を「利用」していると考えるべきである。本講演では、このような文法観を支持すべき根拠を複数提示しながら、文法の生得的性質と社会的性質を整理し全体像を素描していく。

招待講演2内容

  • タイトル:日本における言語社会化と「責任」の文化的形成
  • 講師:高田明(京都大学)
  • 要旨:言語社会化論は、子どもは成長の過程で、言語以外を含む様々な記号論的資源を用いることで、状況に応じた適切な行為を行うようになっていくというパースペクティブを提示している。こうしたパースペクティブに立脚して、発表者らは、日本/日本語における言語社会化が生じる過程について、「お腹の赤ちゃん」をめぐる参与枠組み、指さしによる注意の共有、行為指示をめぐるコミュニケーション、ものの移動による環境の更新、感情語彙による道徳性の社会化、物語りによる注意、感情、道徳性の組織化といった研究を推進してきた(高田 近刊)。本発表では、そうした研究の成果の一部を紹介する。こうした研究は、文化的に枠づけられた相互行為の中で子どもが状況に応じて適切に振る舞うための時間的・空間的な幅を広げていく過程を解明し、その発話共同体を特徴付ける生活世界がどのように生産、維持、変革されるかについての私たちの理解を深めることに貢献する。

講演1内容

  • タイトル:Reference in conversation
  • 講師:Tsuyoshi Ono (University of Alberta)
  • 要旨:Our examination of everyday interactions highlights the interactional and thus temporal nature of reference in human interaction. Specifically, we find:
    1. As interaction unfolds, the specificity of what is being talking about (i.e., reference) constantly shifts: from general types to specific objects and from specific objects to general types.
    2. A speaker’s less-than-specific referents, however inexact they may be, are often then ‘reified’ as referents by the recipient.
    Our data thus show that reference is a profoundly interactional phenomenon – temporal, often non-discrete and non-exact, constantly negotiated, and continually emergent.

    ※発表は日本語で行ないます。


講演2内容

  • タイトル:反応表現の相互行為上の機能と韻律的バリエーション:英語reallyを例に
  • 講師:横森大輔(九州大学)
  • 要旨:会話データを用いた言語研究の強みの一つは個々の言語表現の相互行為上の働きを記述できることにあり、そのような記述が特に期待される研究対象として「あいづち」をはじめとする様々な反応表現がある。これまで反応表現の研究は数多く行われているが、語彙や構文ごと(例:「はい」「うん」)に特徴の記述が行われる傾向が強く、韻律上の特徴を考慮した研究は必ずしも多くない。本研究では、英語会話において情報伝達(informing)への反応として用いられる談話標識reallyに着目し、上昇調で産出された場合と下降調で産出された場合に指標されるスタンスの違いとそれによって成し遂げられる相互行為上の働きの違いを、会話分析の手法を用いて明らかにする。分析には米国における友人・家族間の電話会話の音声を集めたCallHomeコーパスを用いる。分析結果として、上昇調の”Really?”と下降調の”Really.”では、いずれも先行発話で伝えられた情報の真性に焦点化するという共通点がある一方、その情報の受け止め方のスタンスに微細な違いがあり、それが相互行為の展開の違いとして現れていることを示す。