「ことば・認知・インタラクション4」
趣旨
会話は、ことばと認知とインタラクションが出会う場です。私たちのプロジェクトでは、言語学・音声学・心理学・認知科学・会話分析・情報工学など、さまざまなアプローチから会話や話し言葉の諸現象に関する研究を行なっています。今回は2013年から数えて4回目の開催となります。二人の先生方に招待講演をお願いしています。一人は言語類型論・言語人類学の立場から文法研究を進めておられる東京外国語大学の中山俊秀先生で、もう一人は「しゃべってコンシェル」のQ&A機能の研究開発などで知られるNTTメディアインテリジェンス研究所の東中竜一郎先生です。例年以上に幅広い視点からの議論ができると期待しています。多くの方の参加をお待ちしております。
- 日時:2016年3月25日(金) 13:00-17:30
- 場所:東京工科大学蒲田キャンパス12号館5階 多目的実習室
http://www.teu.ac.jp/campus/access/006648.html - プログラム:
13:00-13:10 開会挨拶 13:10-13:50 講演1:森大毅(宇都宮大学)
会話中の行為連鎖に関与する発話の特徴14:00-15:00 招待講演1:中山俊秀(東京外国語大学)
話しことばが新たに拓く文法研究を考える15:10-16:10 招待講演2:東中竜一郎(NTTメディアインテリジェンス研究所)
雑談対話システムにおける対話現象16:20-17:00 講演2:遠藤智子(日本学術振興会/筑波大学)
儀礼の中の相互行為:家庭内神道祖霊祭における言語行動と非言語行動17:00-17:30 総合討論 - 参加費:無料
- 主催:
- 科研費基盤研究(B)「発話連鎖アノテーションに基づく対話過程のモデル化」
- 国立国語研究所共同研究(準備研究)「大規模日常会話コーパスに基づく話し言葉の多角的研究」
招待講演1内容
- タイトル:話しことばが新たに拓く文法研究を考える
- 講師:中山俊秀(東京外国語大学)
- 要旨:この講演では、話しことばを基盤とした文法研究の必要性と可能性について考える。
従来の文法研究においては、書きことばや使用のコンテクストから切り離された言語表現を基盤にその記述・分析・理論化の研究が行われてきた。しかしながら、「文法体系がどのようにして今ある形になったのか」という視点から文法の作りを明らかにしようとしてみると、これまでの研究でほぼ全く顧みられていなかった話しことばにおける言語使用の実態を考えざるをえない。文法は歴史的変化の中で形づくられる体系であり、その変化は言語使用の中で進むからである。
話しことばのデータに基づいて文法パターンの研究を試みてすぐに思い知るのは、従来の文法研究の中で築き上げられてきた記述・分析枠組みと話しことばの実態の間のミスマッチの大きさである。それは、単に運用(performance)における誤差という性質のものではなく、システムの本質に関わるものである。
この講演では、話しことばの実態が示唆する文法体系の特性を確認し、その特性を踏まえた文法観に基づく分析・記述枠組み、さらには文法に関して我々が本来目を向けるべきより根源的な研究課題とは何かを考える。
招待講演2内容
- タイトル:雑談対話システムにおける対話現象
- 講師:東中竜一郎(NTTメディアインテリジェンス研究所)
- 要旨:日常会話が可能なコンピュータを目指し、雑談対話システムの構築を進めている。本講演では、雑談対話システムがどのように雑談を実現しようとしているかについて述べ(たとえば、大規模テキストデータからの発話知識構築やオープンドメイン質問応答技術など)、ユーザとの対話を分析した結果について述べる。分析では、特に対話破綻の現象を取り上げ、対話破綻の類型やどういったシステム発話が対話に悪影響をもたらすのかについて述べる。本講演では、対話ログやユーザとのやり取りの動画を多く用いて雑談対話システムにおける対話現象を紹介し、対話システム研究者と言語学者の橋渡しができるようにしたいと考えている。
講演1内容
- タイトル:会話中の行為連鎖に関与する発話の特徴
- 講師:森大毅(宇都宮大学)
- 要旨:会話における行為連鎖は、談話を構造としてとらえ、分析・モデル化することを可能にするために重要である。工学的には、これは人間と機械のインタラクションにおいて、いつ話し始めるかといった機械の行動モデルを得るための資料となり得る。本発表では、会話コーパスに条件的関連性を有する連鎖を記述する試みについて述べるとともに、機械学習によって見出された、連鎖の引き金になる発話(いわゆる隣接ペア第1部分)の言語的・音響的特徴について述べる。
講演2内容
- タイトル:儀礼の中の相互行為:家庭内神道祖霊祭における言語行動と非言語行動
- 講師:遠藤智子(日本学術振興会/筑波大学)
- 要旨:言葉は多様である。それは、様々な言語が文法や音韻において異なる特徴を持つということだけでなく、一人の人間による言語行動であっても、種々の要因によって様々に異なる形をとりうるということでもある。このような個人の言語使用における多様性は、voice (Hill 1995)やキャラクタ(定延2013)、文法の多重性仮説(Iwasaki 2015)等の観点から論じられているが、その実態の解明にはさらなる実証的な研究が必要である。本発表では、ある家庭で毎年行われている神道の祖霊祭をビデオ撮影したデータを用い、祭司および他の参加者が、儀礼とその前後という状況の違いや、参加者の性質(大人か子どもか)等によって様々に異なる類の言語および非言語行動を行っていることを論じる。