公開シンポジウム「ことば・認知・インタラクション5」


「ことば・認知・インタラクション5」


趣旨

会話は、ことばと認知とインタラクションが出会う場です。私たちのプロジェクトでは、言語学・心理学・会話分析・認知科学・情報工学など、さまざまなアプローチから会話や話し言葉の諸現象に関する研究を行なっています。今回は2013年から数えて5回目の開催となります。今回は、霊長類やアフリカ牧畜民などを対象としたフィールドワークでコミュニケーションの進化などについて人類学の立場から研究されている岡山大学の北村光二先生を招待講演にお招きし、みなさんと共に議論する場を設けました。多くの方の参加をお待ちしております。



招待講演1内容

  • タイトル:人類史というスケールで考えるコミュニケーション
  • 講師:北村光二(岡山大学)
  • 要旨:コミュニケーションとは何かという問いに対する答えには、「情報の伝達」というタイプのものと、「人との関係を作り出すもの」という2種類がある。コミュニケーションという一つの出来事を取り出すという分析的な立場からは、情報の伝達という捉え方になるのに対して、コミュニケーションにコミュニケーションが接続して現実が変わることに注目する立場からは、関係を作り出すものという考え方になる。そして、相互行為システムは、同じ場所に居合わせる人々がするコミュニケーションが次々に接続したまとまりであるが、この「相互行為システムのコミュニケーション」は、人類史を通じて、個人が社会的関係世界に関与して自らをそこに位置づけるうえで最も基礎的で不可欠なものであり続けてきた。ここでは、これを人類史に位置づけて考察しながら、現代日本に生きる私たちが抱えるコミュニケーション問題についても考えたい。

講演1内容

  • タイトル:相互行為基盤としての会話場
  • 講師:坂井田瑠衣(慶應義塾大学/日本学術振興会)
  • 要旨:会話場とは、ある者が話し手として話し出した時、その発話が(少なくとも1人の)受け手によって聞かれることが期待できる状態を指す。これは、いかにして人々が相互行為の時空間的な基盤を刻々と作り出し、維持しているかを捉えるための試論的な枠組みである。医療やサービスなどの実務的なフィールドでは、会話者の構成が頻繁に組み替わる、会話中に移動が生じるなどして、会話場が動的に組織される様子が見られる。本発表では、複数の実務的フィールドにおける会話場の組織化過程を事例分析し、それぞれの実務の特性を反映したやり方で会話場が形成、維持、解体されていることを示す。

講演2内容

  • タイトル:順番交替と認識的地位
  • 講師:早野薫(日本女子大学)
  • 要旨:サックスら(Sacks, Schegloff and Jefferson 1974)は、現在の話し手が次の話し手を選ぶための技法のひとつとして「会話者が社会的に何者であるのか」を利用する技法を挙げている。例えば、ある人物に関する質問が問われ、その場にその人物の妻/夫がいたならば、この質問は妻/夫に向けられたものとして理解されるだろう。このような事例は、「誰が何を知っているべきか」、どのような「認識的地位(epistemic status)」(Heritage 2012)にあるかに関する会話参加者たちの理解を拠り所として順番移行が成立する事例だと言うこともできる。本発表では、認識的地位が順番割り当ての技法として利用されている事例を取り上げ、「認識的地位」が会話の中でどのように具現し、強化されたり交渉されたりするか、分析、考察を試みる。

講演3内容

  • タイトル:「日常会話コーパス」による談話標識「だから」の研究
  • 講師:臼田泰如(国立国語研究所)
  • 要旨:「だから」という談話標識は、それ以前までの発話ややりとりにおける情報を受け、その時点での結論を導くという構造的役割をもつと考えられている。しかし、実際の会話においては、必ずしもそのような論理的関係を表示するとは限らず、原因と結果の関係にあるとは考えにくい要素同士をつなぐ位置に生じることも少なくない。本発表では、こうした「だから」について、現在構築中の「日本語日常会話コーパス」のデータを用いて、会話の中でどのような役割を担っているのか考察を試みる。またこの考察を通じて、充実したデータ量と付加的情報をもつ会話コーパスが関連分野にどのように貢献可能かについて議論を深めたい。