第8回LC研究会のご案内

第8回LC研究会を以下の予定で開催します。

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第8回LC研究会
日時: 2009年12月16日 (水) 16:00〜18:00
場所: 国立国語研究所417室
発表者: 岡本雅史 (東京工科大学片柳研究所)
題目: ツッコむということ―認知と相互行為における多元的関与
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概要

Austin (1963) が「発話行為」の概念を提唱したとき、初めて発話とは言語メッセージのレベルだけでなく、行為レベルでも他者と関わっていることが明らかとなった (岡本 1997)。Butler (1997) はこの他者との関係性の変容をもたらす発話の性質を「行為遂行性 (performativity)」と呼び、この行為遂行性が絶えず参与者の主体性を構築することを指摘し、話者の主体性を発話に先立って前提するAustinの立場を批判する。言い換えれば、発話とはその都度、それに関わる参与者の社会的関係を構築し更新する動的な出来事であり、その意味で聞き手の理解や解釈といった内的な認知過程もそうした関係性の変容に伴う結果であり、同時に関係性を更新する要因の一つでもある。このとき、生じた関係性の主体や対象へのメトニミー的帰属を「意味」と読み換えることが許されるならば、我々は様々な見えざる関係性の両端として、主体や対象を認めていることが分かるだろう。つまり、発話の意味や意図とは、発話と話者・聴者と(表出された)事態との間の関係性のメトニミー的帰属に基づくものである。こうした様々な関係性を孕む発話事態 (speech event) において、聴者はまた次の話者として発話事態を構築し、そこに内在する諸関係を変容せしめる存在である。この聴者による発話理解過程が、先行する発話事態に対する聴者の認知作用に支えられていること、および理解の表出としての応答がどのように先行発話事態を構造化していくかを観察するために、本発表では漫才対話におけるツッコミ発話を取り上げる。物言わぬ解釈主体としての聴者は先行発話に対して、言語メッセージレベル、発話行為レベル、さらには表出行動レベルの3つのレベルで関与する。漫才におけるツッコミ発話もまた、その3つのレベルで相方のボケ発話に応答するのであるが、外部観察不可能な聴者の認知が観察可能なツッコミ応答として表出されるため、客観的な観察対象として取り扱うことが可能となる。こうした背景から、本発表はClark & Schaefer (1989) で示された理解提示方略や、Watzlawick et al. (1974) が主張する「リフレイミング」に示唆を得て、実際の漫才データに現れたツッコミ発話の機能を分析し、さらには「相互行為を見せること」としての〈オープンコミュニケーション〉
(岡本 2008) の観点から、発話事態にどのような変容が生じているのかを明らかにする。